東京大学では、AIや量子コンピュータから、宇宙や素粒子、次の世代のエネルギーまで、幅広い分野で大きな研究が進んでいます。ただ、ニュースで名前を聞いても、何を目指していて今どの段階にあるのかは、なかなか見えにくいものです。
この記事では、東京大学の最先端研究のうち、東京大学と共同で研究を進める機関の公式発表で確かめられるものを7つ選び、目的と現在の状況を紹介します。後半では、高校生や受験生が東大の研究にふれられる講座や一般公開もまとめました。
この記事のポイント
- 東京大学が中心になって進める研究を、公式発表で確かめられる7つに絞って紹介
- AI・量子、宇宙と素粒子、エネルギーの3分野に分けて、目的と今の段階を説明
- 高校生が参加できる「金曜特別講座」や柏キャンパスの一般公開も紹介
この記事で紹介する7つの研究
紹介する研究は、東京大学や研究所、共同で研究を進める機関が公式に発表している内容をもとに選びました。数字や年は、それぞれの発表の時点のものです。
東京大学は国立大学法人として、6年ごとに中期目標・中期計画を定めて教育と研究を進めています。今は第四期(2022〜2027年度)で、その内容は大学の公式サイトで公開されています。
| 分野 | 研究 | 中心となる組織 |
|---|---|---|
| AI・量子 | Beyond AI研究推進機構 | 東京大学とソフトバンク |
| AI・量子 | IBMの量子コンピュータ | 東京大学とIBM(量子イノベーションイニシアティブ協議会) |
| 宇宙・素粒子 | スーパーカミオカンデ | 東京大学宇宙線研究所 |
| 宇宙・素粒子 | ハイパーカミオカンデ | 東京大学(国際共同研究) |
| 宇宙・素粒子 | 重力波望遠鏡KAGRA | 東京大学宇宙線研究所・高エネルギー加速器研究機構・国立天文台 |
| 宇宙・素粒子 | カブリ数物連携宇宙研究機構 | 東京大学(柏キャンパス) |
| エネルギー | ペロブスカイト太陽電池 | 東京大学先端科学技術研究センター |

AI・量子コンピュータの研究
情報の分野では、AIの研究を進めるための専用の組織と、実物の量子コンピュータを使って研究できる場が設けられています。
1. Beyond AI研究推進機構
Beyond AI研究推進機構は、東京大学とソフトバンクが2020年5月に設立した研究組織です。AIの基盤技術の研究や、ほかの学術分野との融合によって、新しい学問分野をつくることを目指しています。
研究は「基礎研究(中長期研究)」と「応用研究(ハイサイクル研究)」の2本柱です。社会や産業の課題にAIを生かすことも目的に掲げ、研究の成果はジョイントベンチャーの設立などを通じて、早く社会で使える形にすることを目指しています(出典: Beyond AI研究推進機構「Beyond AI研究推進機構について」)。

2. IBMの量子コンピュータと量子イノベーションイニシアティブ協議会
東京大学とIBMは2021年7月27日、日本初のゲート型商用量子コンピュータ「IBM Quantum System One」が動き始めたと発表しました。設置場所は、神奈川県川崎市の「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター(KBIC)」です。
2023年10月1日からは、127量子ビットの「Eagle」プロセッサーを載せたシステムが稼働しています。東京大学の2023年11月27日の発表によると、「量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII)」に参画する組織の研究者が、バイオ・インフォマティクス、高エネルギー物理学、材料科学、金融などの分野の量子研究にこのシステムを使っています。

宇宙と素粒子の研究
岐阜県飛騨市神岡町の地下や、千葉県柏市の柏キャンパスでは、宇宙の成り立ちや素粒子の性質を探る研究が続いています。ノーベル賞につながった観測も、この分野から生まれました。

3. スーパーカミオカンデ(ニュートリノの観測)
スーパーカミオカンデは、東京大学宇宙線研究所が岐阜県飛騨市神岡町の地下で運用している、ニュートリノの巨大な観測施設です。前身のカミオカンデと合わせた「カミオカンデ・シリーズ」の実験からは、2つのノーベル物理学賞が生まれています。
2002年には小柴昌俊氏が、2015年には梶田隆章氏がノーベル物理学賞を受けました。梶田氏の受賞理由は「ニュートリノが質量をもつことを示すニュートリノ振動の発見」です。それまで質量がないとされてきたニュートリノに、質量があることを世界で初めて示しました(出典: 東京大学「特別公開『梶田隆章先生ノーベル賞受賞』」)。
4. ハイパーカミオカンデ(2028年に観測開始の予定)
ハイパーカミオカンデは、東京大学が主導して岐阜県飛騨市で建設を進めている、次の世代の観測装置です。2025年8月には、検出器の本体を置く巨大な地下空洞の掘削が終わりました。
これから水槽の構築や機器の取り付け、超純水の注水を進め、2028年に観測を始める予定です。ニュートリノの精密な測定や陽子崩壊の探索を通じて、宇宙の進化の謎の解明や、素粒子の大統一理論の検証を目指します(出典: 東京大学大学院理学系研究科「ハイパーカミオカンデ計画:超巨大空洞の掘削を完了」2025年8月5日)。
5. 重力波望遠鏡KAGRA
KAGRA(かぐら)は、岐阜県飛騨市神岡町にある神岡鉱山の地下約200メートルのトンネルに設置された重力波望遠鏡です。片側3キロメートルの腕を持つL字型の装置で、東京大学宇宙線研究所が、高エネルギー加速器研究機構・国立天文台とともに進めています。
重力波は、アインシュタインが一般相対性理論で予言した「時空のさざ波」です。ブラックホールのような非常に重い天体が衝突するときなどに生まれ、光の速さで伝わります。2015年9月14日にアメリカのLIGOが初めて直接とらえ、それ以来、電波や光では見えない宇宙の姿を調べる「重力波天文学」が広がっています。
地下に置くことで地面の揺れによる雑音を減らし、装置の心臓部にあたる鏡を極低温まで冷やして、熱による雑音も減らしています。
2020年4月に初めての国際共同観測を行いました。2024年1月1日の能登半島地震で装置の一部が損傷しましたが、復旧作業を経て、2025年6月から11月までアメリカのLIGO、ヨーロッパのVirgoとの共同観測運転に参加しました(出典: 東京大学基金「大型低温重力波望遠鏡(KAGRA)プロジェクト」)。
6. カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)
カブリ数物連携宇宙研究機構は、2007年10月に文部科学省の「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」の拠点として、東京大学を受け入れ機関に発足しました。2012年4月には、カブリ財団からの寄付を受けて今の名称になっています。
物理学・数学・天文学の研究者が分野をこえて集まる研究所で、拠点は柏キャンパスにあります。2025年4月の時点で常勤の研究者は100人、連携する研究者や学生を含めると約300人が集まる国際的な研究拠点です(出典: Kavli IPMU「History」)。

エネルギーの研究
脱炭素に向けて、次の世代の太陽電池の研究も進んでいます。
7. ペロブスカイト太陽電池(先端科学技術研究センター)
東京大学先端科学技術研究センターの瀬川研究室は、次の世代の高性能な太陽電池を研究しています。中でも力を入れているのが、軽くて曲げられ、低いコストでつくれる太陽電池として期待されているペロブスカイト太陽電池です。
研究室では、変換効率が20%を超える、曲げられるミニモジュールも開発しています(出典: 東京大学先端科学技術研究センター「エネルギー環境分野 瀬川研究室」)。

高校生・受験生が東大の研究にふれるには?
研究の中身は、記事を読むだけでなく、研究者本人の話を聞くと理解が深まります。東京大学には、高校生が参加できる講座や、研究所を公開する行事があります。
高校生と大学生のための金曜特別講座
東京大学教養学部が、生産技術研究所と共催で開いている講座です。東大の教員が自分の専門分野の面白さを、中高生や大学生の進路選びの参考になるように解説します。内容は文系から理系まで幅広く、年に26回開かれています。
2026年度の前半は、4月17日から7月17日までの金曜日17時30分〜19時に、Zoomで配信されました。参加費は無料で、事前の登録が必要です。一般の方は東大駒場友の会に入会している必要があります(出典: 東京大学教養学部「高校生と大学生のための金曜特別講座」2026年5月1日の募集案内)。
柏キャンパスの一般公開
千葉県柏市の柏キャンパスでは、研究所が研究を紹介する一般公開が開かれています。2025年は10月24日・25日に開かれ、宇宙線研究所やカブリ数物連携宇宙研究機構などが参加し、2日間で8,800人を超える人が訪れました。
特別講演会はアーカイブで視聴することもできます。2026年の日程は、柏キャンパスの公式サイトで確かめてください(出典: 東京大学「東京大学柏キャンパス一般公開2025を開催」)。
研究の発表や「キミの東大」を読む
東京大学の公式サイトでは、研究成果の発表が公開されています。高校生・受験生向けには、東京大学のことを知るためのサイト「キミの東大」もあります。気になった研究所のサイトをときどき見ると、研究がどこまで進んだかを追いかけられます。
まとめ
東京大学では、AIや量子コンピュータの研究組織、ニュートリノや重力波の観測施設、宇宙の成り立ちを探る研究所、次の世代の太陽電池の研究室など、さまざまな規模の研究が同時に進んでいます。
観測装置の建設や国際共同観測のように、何年もかけて進む研究が多いのも特徴です。ハイパーカミオカンデの観測開始(2028年の予定)のように、これから結果が出る研究もあります。
研究者の話を直接聞きたい場合は、金曜特別講座や柏キャンパスの一般公開が入り口になります。進路を考える材料として、まずは気になる研究を1つ選び、公式サイトで続きを追ってみてください。
よくある質問
Q. この記事の7つの研究は、どこで行われていますか?
A. スーパーカミオカンデ、ハイパーカミオカンデ、KAGRAは岐阜県飛騨市神岡町の地下にあります。宇宙線研究所とカブリ数物連携宇宙研究機構は千葉県の柏キャンパスに拠点があり、IBMの量子コンピュータは神奈川県川崎市に設置されています。
Q. 高校生でも東大の研究者の話を聞けますか?
A. 金曜特別講座は、中学生・高校生も対象に含まれています(2026年度の前半はZoomで配信)。柏キャンパスの一般公開でも、研究所の展示や講演にふれられます。
Q. 金曜特別講座に費用はかかりますか?
A. 参加費は無料です。事前の登録が必要で、一般の方は東大駒場友の会への入会が必要です。2026年度の前半の定員は3,000名(先着順)でした。
Q. ハイパーカミオカンデはいつ完成しますか?
A. 2025年8月に地下空洞の掘削が終わり、2028年に観測を始める予定です。予定は変わることがあるので、最新の情報は東京大学の発表で確かめてください。
Q. KAGRAは今も観測していますか?
A. 2025年6月から11月まで、LIGO・Virgoとの共同観測運転に参加しました。次の観測の予定は、KAGRAの公式サイトで確かめてください。
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。最新情報は各公式サイトでご確認ください。
最終更新: 2026年9月26日
※本記事内の統計・数値・データは記事公開時点の情報です。最新情報は各公式サイトでご確認ください。
参考サイト
- 東京大学「中期目標・中期計画」
- Beyond AI研究推進機構「Beyond AI研究推進機構について」
- 量子イノベーションイニシアティブ協議会「東京大学とIBM、日本初のゲート型商用量子コンピューターを始動」(2021年)
- 東京大学「東京大学、127量子ビットのプロセッサーの導入を完了」(2023年)
- 東京大学「特別公開『梶田隆章先生ノーベル賞受賞』」
- 東京大学大学院理学系研究科「ハイパーカミオカンデ計画:超巨大空洞の掘削を完了」(2025年)
- 東京大学基金「大型低温重力波望遠鏡(KAGRA)プロジェクト」
- Kavli IPMU「History」
- 東京大学先端科学技術研究センター「エネルギー環境分野 瀬川研究室」
- 東京大学教養学部「高校生と大学生のための金曜特別講座」(2026年度の募集案内)
- 東京大学「東京大学柏キャンパス一般公開2025を開催」
- 東京大学「キミの東大」

