この記事のポイント
- ベトナム政府は2045年の高所得国入りを目標に掲げ、海外留学支援を国家戦略として位置づけている
- 日本学生支援機構(JASSO)のデータでは、ベトナム人留学生は日本における主要な留学生グループの一つとなっており、理工系・IT分野への集中が顕著
- ベトナムの教育改革は日本の大学・企業・学習環境にも直接的な影響をもたらしており、受け入れ側の対応が問われている
ベトナムが「教育で国を変える」という方針を鮮明にしています。国費留学プログラムを拡充し、理工系・IT人材を海外の大学へ送り出す政策を継続的に強化してきた背景には、2045年の高所得国入りという国家目標があります。この動きは、留学生を受け入れる日本の大学や企業、さらには学習環境の整備にも無視できない影響をもたらしています。
この記事では、ベトナムの海外留学支援と教育政策の現状を整理したうえで、国際競争力への影響と日本側の対応策を順に見ていきます。
ベトナムの教育政策と海外留学支援とは?現状を整理する
ベトナムは1986年のドイモイ(刷新)政策以降、市場経済化と対外開放を推進してきました。教育分野でも同様に、国際化を軸とした改革が続いています。海外留学支援はその中核をなす政策であり、政府主導のプログラムが複数存在します。

国費留学プログラム「Project 911」の概要と実績
ベトナム政府が推進してきた代表的な国費留学プログラムが「Project 911」(正式名称:Decision No. 911/QD-TTg)です。ベトナム教育訓練省が主管するこのプログラムは、2010〜2020年に国内の大学・短大の教員を博士号取得者として養成すること(海外の博士課程への国費留学を含む)を目的としていました。
決定911号(2010年6月17日付の首相決定)は、2020年までに少なくとも2万人の博士を追加で養成する目標を掲げていました。養成の形式ごとの目安は、海外の大学で約1万人、国内外の大学の連携で約3,000人、国内で約1万人です。優先分野は工学・技術、自然科学、農業などでした。
予算は総額約14兆ドンを見込み、その約94%を国の予算でまかない、約64%を海外で全課程を学ぶ養成に充てる計画でした(ベトナム政府ポータル「決定911/QĐ-TTg」)。
留学先は欧米・オーストラリアが中心ですが、日本も一定の受け入れ先として機能しています。ベトナム政府は留学支援を「人的資本への投資」と位置づけており、予算配分の優先度は高く設定されています。
2026年時点の留学生数とその内訳
日本学生支援機構(JASSO)が毎年公表する「外国人留学生在籍状況調査」によると、ベトナム人留学生は中国、ネパールに次ぐ規模(2025年5月1日現在43,366人)で日本に在籍しており、日本の留学生受け入れにおいて主要なグループの一つを形成しています。最新の公式データについてはJASSO公式サイトで確認できます。
留学形態としては、大学院(研究留学)・学部・専門学校・日本語学校と多岐にわたります。特に理工系・情報系の大学院への進学が増加傾向にあり、これはベトナム政府がIT・製造業人材の育成を国家戦略として掲げていることと連動しています。留学生全体の出身地域としてはハノイやホーチミン市などの都市部が多いが、地方出身者の割合も徐々に拡大しています。

なぜベトナムは海外留学支援を強化しているのか?
政策の背景を理解するには、ベトナムが直面している経済的課題と国際的な競争環境を把握する必要があります。単なる教育政策ではなく、国家の成長戦略と直結した動きです。
高度人材不足と経済成長目標のギャップ
asean.bigbeat.co.jpの2026年3月の分析によると、ベトナム政府は2026〜2030年に10%を超える経済成長を目指し、2045年までに高所得国入りを実現させるというビジョンを掲げています。この目標を達成するためには、製造業・IT・金融など高付加価値産業の拡大が不可欠です。
しかし現実には、ベトナムはIT人材の不足が深刻とされており、教育システムの強化や海外からの技術移転が急務とされています(同資料)。国内の大学教育だけでは高度人材の需要を満たせないため、海外留学による人材育成が補完的な役割を担っています。2024年のGDP成長率が7.09%(同資料)に達した一方で、成長を持続させるための人材基盤はまだ脆弱な部分が残ります。

ASEAN域内での国際競争激化という背景
ベトナムは2020年にASEAN議長国を務め、RCEP(地域的な包括的経済連携協定)の署名(2020年11月)を議長国として取りまとめました(asean.bigbeat.co.jp、2026)。ASEAN域内ではタイ・マレーシア・インドネシアなどが高度人材育成で先行しており、ベトナムが競争力を維持するには人材の質的向上が欠かせません。
日本への留学生はどう変化している?
ベトナムの海外留学支援強化は、日本の留学生受け入れ動向にも具体的な変化をもたらしています。数字の推移と分野別の傾向を整理します。

日本学生支援機構(JASSO)データで見るベトナム人留学生の推移
JASSOが公表する「外国人留学生在籍状況調査」は、日本における外国人留学生の在籍数・出身国・在籍機関種別を毎年調査しています。最新の確定データについてはJASSO公式サイトで公開されており、ベトナムは中国、ネパールに次ぐ第3位の送り出し国として上位に位置しています(2025年5月1日現在)。
在籍機関の内訳としては、大学院・大学・短期大学・専門学校・日本語教育機関と多様ですが、近年は大学院(特に工学系・情報系)への進学が増加傾向にあります。これはベトナム政府の国費留学プログラムが研究者・高度人材の育成を重点目標としていることと一致します。
理工系・IT分野への集中と日本の大学・企業への影響
ベトナム人留学生の専攻分野は、理工学・情報科学・工学系に集中する傾向があります。これは国内のIT人材不足を補うという政府の政策意図と、日本の製造業・IT企業がベトナム人エンジニアを積極採用しているという労働市場の需要が重なった結果です。
asean.bigbeat.co.jpの分析(2026年)によると、製造業を中心に約1,990社(2023年時点)の日本企業がベトナムに進出しており、2010年の867拠点から倍増しています。この日越間の経済的結びつきは、日本でIT・工学を学んだベトナム人留学生の就職先として日本企業が機能するという構造を生んでいます。

ベトナムの教育改革が国際競争力に与える影響
ベトナムの教育政策は、単に留学生を増やすことだけを目的としていません。帰国後の人材活用と産学連携の拡大を通じて、国の競争力を底上げしようとする長期的な戦略があります。
帰国後の人材活用戦略と頭脳流出リスクのバランス
海外留学支援には常に「頭脳流出」のリスクが伴います。この点を分析したのが、Rosenzweig, M.R.の2008年の研究(「Higher Education and International Migration in Asia: Brain Circulation」、世界銀行の開発経済会議の論文集に所収)です。
この研究は、賃金水準の低い国ほど多くの学生が海外で学び、送り出す学生が多い分、人口あたりで見ると海外で学んだ人材を国内に多く抱えるため、差し引きでは「頭脳獲得」になりやすいと分析しています。ただし、米国で学んだ留学生の帰国率は賃金水準の低い国ほど低く、人材の一部を失う負担はそうした国ほど大きいとしています。
ベトナム政府はこのリスクを認識したうえで、帰国留学生向けの優遇措置(研究ポストの確保・給与体系の改善・スタートアップ支援)を整備することで、帰国インセンティブを高める方向を模索しています。ただし、こうした施策の実効性については、今後の定量的な検証が必要な段階にあります。
ベトナムの一人当たりGDPは世界銀行のデータによると約5,066ドル(2025年)にとどまっており、高所得国との経済格差が帰国意欲に影響を与え続けることは否定できません。

日越間の産学連携・共同研究の広がり
日本とベトナムの間には2009年10月に発効した日越経済連携協定(EPA)があり(asean.bigbeat.co.jp、2026)、経済的な連携の基盤は整っています。この枠組みを活用した産学連携も広がっており、日本の大学とベトナムの大学が共同研究プロジェクトを実施する事例が増えています。
外務省のベトナム関連ページ(2026年8月更新)では、日越間の要人往来・首脳会談記録やODA情報が公開されており、両国の政府間連携が活発であることが確認できます。産学連携の具体的な成果としては、IT・製造業分野での共同研究や人材交流プログラムが報告されています。
日本側はどう対応すべき?受け入れ体制と学習環境の視点
ベトナムからの留学生増加は、日本の教育機関と学習環境に新たな課題を突きつけています。受け入れ側として何を整備すべきか、具体的に見ていきます。

日本の大学・専門学校に求められる変化
日本学生支援機構の「令和5年度私費外国人留学生生活実態調査」(回答7,867人・出身国を問わない集計)では、留学するまでに特に苦労したこととして「日本語学習」が57.5%で最も多く、「情報の収集」が49.5%、「留学資金準備」が36.7%、「留学ビザ取得」が28.5%でした(複数回答)。日本語や費用、ビザの負担をどう下げるかが、受け入れ側の課題です。
具体的には、英語による授業の拡充、奨学金制度の充実、日本語教育サポートの強化、そして卒業後の就職支援が求められます。文部科学省は「留学生30万人計画」以降も受け入れ拡大を政策目標としており、大学・専門学校レベルでの体制整備が加速しています。詳細は文部科学省公式サイトで確認できます。
留学生が学習環境に求めるもの:自習室・図書館の活用実態
留学生が日本での学習を円滑に進めるうえで、キャンパス外の学習環境も重要な役割を果たします。特に大学院生や社会人留学生にとって、深夜・早朝を含む柔軟な時間帯に集中できる学習スペースの需要は高まっています。
自習室は、図書館の閉館後や試験前の集中学習期に特に活用されやすい場所です。新宿のような大都市には、24時間営業の自習室もあります。
管理人が運営するアイデスク新宿自習室(新宿西口駅徒歩3分・24時間365日営業・半個室ブース18席+オープン席3席・Wi-Fi完備・全席電源)も、深夜や早朝に学習したいときの選択肢のひとつです。

ベトナムと主要留学先国の比較
ベトナム人留学生が留学先を選ぶ際の判断材料を整理するため、主要な受け入れ国の特徴を比較します。
| 項目 | 日本 | アメリカ | オーストラリア |
|---|---|---|---|
| 主な授業言語 | 日本語(英語コース拡大中) | 英語 | 英語 |
| 就労機会 | 週28時間まで(在学中) | 週20時間まで(在学中) | 2週間で48時間まで(学期中) |
| 日越間の経済連携 | 日越EPA発効(2009年)・日本企業約1,990社進出 | 貿易額1,100億ドル規模(2023年) | RCEP参加国として連携 |
| 言語的障壁 | 高い(日本語習得が必要) | 中程度(英語力が前提) | 中程度(英語力が前提) |
| 奨学金制度 | JASSO・文科省等 | フルブライト等 | Australia Awards等 |
※各国の制度詳細・最新情報は各機関の公式サイトでご確認ください。就労時間等のビザ条件は変更される場合があります。
まとめ:ベトナムの教育政策から読む国際競争の行方
ベトナムは1986年のドイモイ政策以降、経済開放と人材育成を車の両輪として国家戦略を進めてきました。2024年のGDP成長率7.09%(asean.bigbeat.co.jp、2026)という数字はその成果の一端ですが、2045年の高所得国入りという目標を達成するには、高度人材の育成がさらに加速する必要があります。
海外留学支援はその中核的な手段であり、日本への留学生流入も今後しばらくは続くと見られます。日本側の課題ははっきりしています。英語教育の充実・奨学金の拡充・就職支援の強化、そして留学生が安心して学べる環境づくりの三点が求められます。
頭脳流出のリスクと人材獲得の機会は表裏一体の関係にあります。Rosenzweig(2008)が示したように、経済格差が続く限り、帰国インセンティブの設計は難しいのが実情です。しかし日越間の産学連携が深まるほど、留学経験者が両国の架け橋として機能する可能性は高まります。
ベトナムの教育政策を「送り出し側の話」として距離を置くのではなく、日本の教育・産業・学習環境に直接関わる問題として捉えることが、これからの国際競争を生き抜くための視点になります。
よくある質問
Q. ベトナムの国費留学プログラム「Project 911」とはどのようなものですか?
A. ベトナム教育訓練省が主管したプログラムで、2010〜2020年に国内の大学・短大の教員を博士号取得者として養成する(海外の博士課程への国費留学を含む)計画でした。決定911号は、2020年までに少なくとも2万人の博士を追加で養成し、そのうち約1万人を海外の大学で養成する目標を掲げていました。
計画自体は2020年までの期間で終了しています。最新の実施状況はベトナム教育訓練省の公式サイトでご確認ください。
Q. ベトナム人留学生が日本を留学先として選ぶ主な理由は何ですか?
A. 日本学生支援機構の「令和5年度私費外国人留学生生活実態調査」(回答7,867人、うちベトナム出身1,185人)は出身国別の集計を示していませんが、全体では日本を留学先に選んだ理由として「日本社会に興味があり、日本で生活したかった」が61.3%で最も多く、「日本語・日本文化を勉強したかった」が39.4%で続きます(複数回答)。
また、製造業を中心に約1,990社(2023年時点)の日本企業がベトナムに進出しており(asean.bigbeat.co.jp、2026)、日本での学位・就労経験がベトナム帰国後のキャリアに直結しやすい点が選択動機のひとつです。一方で日本語という言語的障壁は依然として高く、この点が英語圏との競争において日本のウィークポイントとなっています。
Q. 頭脳流出リスクとはどういう意味ですか?ベトナムの場合はどうですか?
A. 頭脳流出とは、優秀な人材が海外留学後に母国へ帰国せず、留学先の国に定着してしまう現象を指します。Rosenzweig(2008)の研究は、米国で学んだ留学生の帰国率が、賃金水準の低い国ほど低いことを示しています。ベトナムの場合、一人当たりGDPがまだ低い水準にあることから、このリスクは現実的な課題です。
政府は帰国留学生向けの優遇措置を整備することでインセンティブを高める方向を模索していますが、実効性の定量的検証はこれからの段階です。
Q. 日本の大学はベトナム人留学生の受け入れ拡大にどう対応すべきですか?
A. 日本学生支援機構(JASSO)の令和5年度の調査では、私費留学生の留学目的として「日本で働く、もしくは日本企業に就職する」が50.2%で最も多くなっています(複数回答)。受け入れ側には、英語による授業コースの拡充、JASSO等の奨学金制度の周知強化、日本語教育サポートの充実、そして卒業後の就職支援が求められます。
文部科学省は留学生受け入れ拡大を政策目標としており、各大学の対応状況は文科省の公式サイトで確認できます。
Q. ベトナム人留学生が日本で学習環境を選ぶ際のポイントは何ですか?
A. 大学院生や社会人留学生を中心に、深夜・早朝を含む柔軟な時間帯に集中できる学習スペースの需要が高いとされています。大学の図書館が閉館する時間帯や試験前の集中学習期には、24時間営業の自習室が選択肢のひとつになります。
Wi-Fi・電源の完備、静かな環境、アクセスの良さが主な選定基準となることが多く、学習目的に合わせてオープン席とブース席を使い分けられる施設もあります。
※本記事の情報は2026年9月時点のものです。最新情報は各公式サイトでご確認ください。
最終更新: 2026年9月29日
参考サイト
- ベトナム社会主義共和国|外務省
- ベトナム経済の現状と今後|2026年以降の展望と注意点とは?
- ベトナムってどんな国?基本情報・統計データ・世界遺産まとめ | ワールドガイド
- Vietnam – Wikipedia
- ベトナム/ヴェトナム(世界史用語解説)
- ベトナム政府ポータル — Quyết định 911/QĐ-TTg(2010年6月17日)
- World Bank — Annual World Bank Conference on Development Economics 2008: Higher Education and Development(Rosenzweig の章を所収)
- 日本学生支援機構 — 令和5年度私費外国人留学生生活実態調査概要

