この記事のポイント
- 2026年6月に改正学校教育法が成立し(2027年4月施行)、教科書にデジタルの形を含められるようになりました。新しい教科書は小学校で2030年度から使われる見込みで、「全てが紙」「紙とデジタルの組み合わせ(ハイブリッド)」「全てがデジタル」の3つの形が想定されています
- 文科省の検討会議が2026年10月22日に示した指針の素案(まだ検討中)は、全ての学年・教科でハイブリッドを中心にする案です。全てがデジタルの教科書を認めない教科・学年では主に紙で作り、デジタルは「補助的・補完的」に組み込むとしています
- 素案では、全てがデジタルの教科書は小学1〜4年生では認めない案です。教科書を選ぶ教育委員会・学校への文科省の意向調査(2025年10〜12月)では、ハイブリッドを望む回答が小学校88.3%・中学校86.3%・高校78.4%でした
2030年度からは小学校を皮切りに、子どもたちが使う教科書の形が変わっていく見込みです。「全部タブレットになるの?」と心配している保護者の方もいるかもしれませんが、文科省の検討会議が示した素案はそうではありません。紙とデジタルを組み合わせた「ハイブリッド」が中心で、多くの教科・学年では紙を主にしながらデジタルの良さを取り入れる案です。
この記事では、文科省の指針素案の内容を整理しながら、学校現場や家庭学習への影響を順に確認していきます。
デジタル教科書の「紙との併用」方針とは?
2026年6月に改正学校教育法が成立し(6月17日公布、2027年4月1日施行)、デジタルを含み得る教科書が法律に位置づけられました。ただし、「全部デジタルになる」というわけではありません。文科省が示す方針の骨格を確認します。

文科省が定める「紙・デジタル併用」の現在の位置づけ
文部科学省の公式ページでは、今回の制度改正について「デジタル化自体を目的とするものではなく、これまで紙だけが認められていた教科書について、デジタルを取り入れて作成することを可能とすることにより、教科書の内容をより分かりやすく、学びやすくすることが目的」と明記されています。
2026年10月22日、文科省の検討会議(デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議)に、指針の素案が示されました。素案の主な内容は次の3点です。
- 全学年・全教科で「ハイブリッド(紙とデジタルの組み合わせ)」を基本とする
- 全てがデジタルの教科書を認めない教科・学年では、ハイブリッドでも主に紙で構成し、デジタルは「補助的・補完的」に組み込む
- 全てがデジタルの教科書は、小学1〜4年生では認めず、小学5年生以上の外国語と一部の実技系教科などに限って認め得る
素案は検討会議の取りまとめの案で、検討会議はこの内容に基づいて文部科学大臣が指針を策定するよう求めています。文科省は10月23日から11月8日まで、素案への意見募集を行っています(e-Gov パブリック・コメント)。指針は年内に策定される見通しと報じられています(日本経済新聞、10月19日)。法律の成立は決まったことですが、指針の中身はまだ検討中です。
これまでの導入経緯:実証事業から本格展開へ
デジタル教科書の制度化は、一夜にして決まったものではありません。平成30年(2018年)の学校教育法改正を起点に、段階的な実証研究が積み重ねられてきました。
文部科学省「デジタル教科書に関する各種調査研究」ページによると、令和元年度(2019年度)から実証研究が始まり、令和3年度(2021年度)にはGIGAスクール構想と連動した普及促進事業が展開されました。令和6年度(2024年度)からは全ての小中学校を対象に、小学5年生から中学3年生への英語デジタル教科書の提供が始まっています。
こうした段階的な実証を経て、2026年6月に改正法が成立。2030年度からの本格導入に向けた制度の枠組みが整った形です。約8年にわたる実証の蓄積が、今回の方針の土台になっています。

なぜ「デジタル一本化」ではなく紙との併用なのか?
「せっかくタブレットがあるなら、全部デジタルにすれば効率的では?」と思う方もいるかもしれません。ただ、学習効果の観点と健康面の両方から、紙との併用が基本とされる理由があります。
学習効果の観点:研究は何を示しているか
紙とデジタルで、文章の理解に差が出る場合があることは研究でも報告されています。Singer & Alexander(2017年)の系統的レビューでは、約500語・1ページを超える文章で、紙のほうが理解の成績がよい研究が多くありました。短い文章では、差がないか、デジタルのほうがよいとする研究もありました。
ただし、紙とデジタルを比べた先行研究について、文科省の検討会議の素案は「一概に述べることは困難」としています。年齢やデジタル媒体への慣れなどの条件によって、紙が優位の結果もデジタルが優位の結果も出ているためです。
一方で、デジタルが役立つ場面もあります。素案は、英語の標準的な発音を聞いて確かめたり、図形やグラフを画面上で動かして理解したりする場面を例に挙げています。外国語のように音声や動画を本文に合わせて再生すると理解が深まりやすい教科では、全てをデジタルで作るほうが効果的な場合もあるとしています。
素案は、紙かデジタルかという「二項対立」に陥らず、教科や学習場面ごとにどちらが効果的かを考えることが重要だとしています。ハイブリッドを中心とする理由には、各教科で紙とデジタルそれぞれが効果的な学習場面があることや、教科書を選ぶ教育委員会・学校の意向などを挙げています。

眼精疲労・健康面への配慮と文科省の見解
健康面への配慮も、紙との併用方針の重要な背景です。NHKの報道によると、文科省の指針素案には「小学4年生以下では認知機能が発達途上にあることなどを踏まえて、デジタルだけの教科書は認めない」という方針が盛り込まれています。
素案も、発達心理学や認知科学などの専門家の指摘を踏まえて、低年齢の子どもの特徴に触れています。注意を制御する機能が未発達で、ワーキングメモリ(情報を一時的に覚えながら処理する働き)の負荷の影響を受けやすい点に留意が必要だとしています。
健康面について素案は、視力低下などを心配する声もあるとして、健康に配慮した取り組みを一層徹底する必要があるとしています。端末の使用と脳の発達の関係を調べた先行研究は、娯楽目的の使用を測ったもので、効果量も小さいと整理しています。一方で、統計的に有意な影響が示唆されている点は事実として受け止める必要があるとし、今後の研究動向も注視すべきだとしています。
文科省の公式FAQでも「教科書が全部デジタルになるの?」という問いに対し「いいえ。紙とデジタルの良さを組み合わせるなど、子供たちにとって、より分かりやすい教科書にすることを目指します」と明確に答えています。

併用方針で学校現場は何が変わる?
方針が示されても、実際に学校現場でどう変わるのかがわからなければ、保護者も教員も対応しようがありません。教科・学年ごとの導入状況と、教員の授業設計への影響を整理します。
教科・学年ごとの導入状況と段階的展開
2026年10月時点の文科省指針素案をもとに、学年・教科別の方針を整理すると以下のようになります。
| 学年区分 | デジタル教科書の扱い | 完全デジタル型 |
|---|---|---|
| 小学1〜4年生 | ハイブリッド基本・デジタル部分は限定的 | 認めない |
| 小学5・6年生 | ハイブリッド基本(全デジタルを認めない教科は主に紙) | 外国語・音楽・図画工作に限り認め得る |
| 中学・高校 | ハイブリッド基本 | 中学は外国語・音楽・美術・技術(技術・家庭の技術分野)、高校は外国語・芸術(書道を除く)・情報・専門学科の各教科に限り認め得る |
新しい教科書は、次期学習指導要領の実施に合わせて使われ始めます。小学校は2030年度、中学校は2031年度から、高校は2032年度から学年進行で使われる見込みです(文科省の通知)。これは学習指導要領が予定どおり改訂された場合の見込みです。全てがデジタルの教科書を認め得る教科も、学習指導要領に向けた答申などを踏まえる必要があるとされています。
教科書へのAIの搭載について、素案は「検討を進めることが必要」とするにとどめており、当面は見送る方針と、素案の提示前に報じられていました(日本経済新聞、10月19日)。
教員の授業設計と端末管理の変化
ハイブリッド教科書の導入は、教員の授業設計に新たな課題をもたらします。「どの場面で紙を使い、どこでデジタルに切り替えるか」を授業ごとに判断する必要が生じるためです。
文科省の令和7年度実証研究事業では、市町村教育委員会および実証研究校における授業改善に関する調査研究が行われており、成果報告書が公開されています。あわせて、授業改善事例集や研修事例集も公開されています。
端末管理の面では、充電管理・Wi-Fi接続の安定性・故障時の対応など、従来の教科書にはなかった運用上の課題が生じます。教員研修の充実が現場から求められており、文科省も都道府県教育委員会向けの研修に関する調査研究を令和7年度に実施しています。
家庭学習への影響はどう考えればよいか?
学校でのハイブリッド教科書導入は、家庭での学習スタイルにも影響します。保護者として知っておきたい視点を整理します。

子どもの自宅学習で紙とデジタルをどう使い分けるか
学校でハイブリッド教科書を使うようになると、家庭学習でも「紙とデジタルの使い分け」を意識する場面が増えます。研究知見を踏まえると、場面ごとの使い分けの目安は次のように考えられます。
- 新しい概念を理解する場面:紙のテキストをじっくり読む。Singer & Alexanderのレビューでは、長い文章は紙で読んだほうが理解の成績がよいとする研究が多いと報告されています
- 英語のリスニング・スピーキング練習:デジタルの音声機能を活用する。素案でも、外国語は主にデジタルで構成する教科書も認め得る教科とされています
- 問題演習・書き込み:紙のノートや問題集を使う。素案も、理解したことや考えたことをノートなどに手書きでまとめて、学習内容の定着を図ることは引き続き重要としています
- 動画・図解での補足理解:デジタルコンテンツを補助的に活用する
タブレットを使うときは、目への配慮も欠かせません。文科省の保護者向けリーフレットは、目を画面から30cm以上離すこと、30分に1回は20秒以上画面から目を離して目を休めることを挙げています。素案も、こうした内容を保護者にも周知する必要があるとしています。
保護者が知っておきたい端末・通信環境の整備状況
デジタル教科書を家庭でも使う場合、端末と通信環境の整備が前提になります。GIGAスクール構想により、学校から1人1台端末が配備されていますが、家庭への持ち帰りルールは学校・自治体によって異なります。
通信環境については、家庭のWi-Fi環境が整っていない場合の対応が課題として挙げられています。学校側も整備の途中で、必要なネットワーク速度を確保した学校は約64%です(2025年12月時点・素案)。お子さんの学校がどのような端末持ち帰りルールを設けているか、また家庭のWi-Fi環境が十分かどうかを確認しておくことが、2030年度以降の準備として有効です。
なお、家庭でデジタル教科書を使う際の具体的な手続きや条件は、各教育委員会・学校の方針によって異なります。最新情報は学校や教育委員会に直接確認してください。

デジタル教科書の効果と課題は?研究データから確認する
「デジタル教科書は本当に効果があるのか」という疑問に答えるため、文科省の実証研究データと現場から挙がる課題を合わせて確認します。
文科省実証研究が示す学習効果の傾向
文科省は、平成30年度(2018年度)の調査研究に続き、令和元年度(2019年度)から実証研究を続けています。
令和元年度(2019年度)の実証研究は、エヌ・ティ・ティラーニングシステムズ株式会社が委託を受けて行いました。同じ学級・同じ教員で、デジタル教科書の授業と紙の教科書の授業を行って比べています。授業後のアンケートでは、全ての項目でデジタル教科書の授業のほうが肯定的に評価されました。
ただし報告書は、この結果は児童生徒の印象や意識であり、「学習面への効果を検証したものではない」としています。健康面では、良い姿勢をとれた、画面と目を30cm以上離せたと答えた生徒ほど、目が疲れていないと感じる傾向がみられました。
令和7年度(2025年度)の実証研究事業では、全ての小中学校を対象に英語等のデジタル教科書を提供し、授業改善事例の収集が行われました。成果報告書は文科省公式ページで公開されており、大規模アンケート調査や授業改善事例集も含まれています。
一方で、学習効果はデジタル技術の使い方・教員の指導法・課題の種類に大きく左右されることも一貫して報告されています。単純に「デジタルを導入すれば学力が上がる」という結論にはならず、「どう使うか」の設計が問われます。
現場から挙がる課題:通信環境・端末コスト・習熟度格差
学校現場からは、デジタル教科書導入に伴う複数の課題が挙がっています。主なものを整理します。
- 通信環境の格差:Wi-Fi環境が整っていない家庭では、デジタル教科書の家庭学習活用が難しくなります
- 端末の維持・更新コスト:GIGAスクール端末の更新費用をどこが負担するかは、自治体によって状況が異なります
- 教員のICT習熟度の差:デジタル教科書を効果的に授業設計に組み込むには、教員のスキルアップが必要です。文科省は都道府県教育委員会向けの研修調査研究を実施していますが、現場への浸透には時間がかかります
- 児童生徒の習熟度格差:端末操作に慣れた子どもとそうでない子どもの差が、学習機会の格差につながる懸念があります
文科省は2025年10〜12月、教科書を選ぶ教育委員会・学校(採択権者)を対象に、教科書の形態に関する意向調査を行いました(リシード、2026年7月17日)。小学校低学年・中学年では、全ての教科で紙とデジタルの割合を「ほぼ紙」か「紙が多い」とする回答が多くなりました。教科書を選ぶ側の意向は、素案の「主に紙で構成する」という考え方と重なります。
まとめ:紙とデジタルを「どう使うか」が問われる時代へ
改正学校教育法の成立で、教科書は「全てが紙」「ハイブリッド」「全てがデジタル」の3つの形が想定されるようになりました。検討会議が10月22日に示した素案は、全ての学年・教科でハイブリッドを中心とする案です。全てがデジタルの教科書を認めない教科・学年では、デジタルは補助的・補完的に組み込むとしています。指針は、意見公募(10月23日〜11月8日)を経て年内に策定される見通しと報じられています。
文科省の意向調査(2025年10〜12月)では、ハイブリッドを望む回答が小学校88.3%、中学校86.3%、高校78.4%でした(検討会議の素案)。教科書を選ぶ教育委員会・学校の意向と、素案の方向性はおおむね一致しています。
保護者の方が今できる準備は、お子さんの学校の端末持ち帰りルールと、家庭のWi-Fi環境を確かめておくことです。2030年度の本格導入まで時間はありますが、学校からの情報を早めにキャッチしておくと、対応に余裕が生まれます。
「紙かデジタルか」という二項対立の時代は終わりつつあります。どちらを、どの場面で、どのように使うか——その設計力が、これからの学びの質を左右します。
よくある質問
Q. 2030年度から教科書は全部タブレットになるのですか?
A. なりません。文科省の公式FAQでも「いいえ」と回答しています。新しい教科書は「全てが紙」「ハイブリッド(紙とデジタルの組み合わせ)」「全てがデジタル」の3つの形が想定されています。検討会議の素案ではハイブリッドを中心とし、全てがデジタルの教科書は小学1〜4年生では認めない案です。
Q. 小学4年生以下は、タブレットを使った授業がなくなるのですか?
A. 授業でのタブレット活用がなくなるわけではありません。素案が「全てがデジタルの教科書」を認めないとしているという話であり、調べ学習・動画視聴・プログラミング学習など、授業でのICT活用とは別の話です。教科書という「正式な教材の形」についての指針であり、GIGAスクール端末の活用自体が禁止されるわけではありません。
Q. ハイブリッド教科書では、紙とデジタルの比率はどのくらいになりますか?
A. 素案は、紙とデジタルの比率を数値では示していません。小学1〜4年生の教科書は概ね紙で構成し、デジタル部分はより限定的にする案です。全てがデジタルの教科書を認めない教科・学年では、ハイブリッドでも主に紙で構成するとしています。一方、外国語と一部の実技系教科などでは、主にデジタルで構成することもあり得るとしています。
教育委員会・学校(採択権者)を対象にした文科省の意向調査では、小学校低学年・中学年について「ほぼ紙」または「紙が多い」ものを望む回答が多くなっています。
Q. デジタル教科書の大臣指針はいつ正式に決まりますか?
A. 2026年10月22日の文科省の検討会議に、指針の素案が示されました。意見公募(パブリックコメント)を経て、2026年内に文部科学大臣の指針が策定される見通しと報じられています。現時点はあくまで「素案」段階であり、内容が一部変更される可能性もあります。最新情報は文科省公式ページでご確認ください。
Q. デジタル教科書の家庭での利用に費用はかかりますか?
A. 英語のデジタル教科書は、令和6年度(2024年度)から全ての小中学校の小学5年生〜中学3年生に国費で提供されています。2026年の改正法では、義務教育段階の教科書について、デジタルの部分も含めて無償措置の対象とされました(文科省の通知)。
ただし、家庭のWi-Fiなどの通信環境は、各家庭で整える必要がある場合があります。学校や教育委員会からの案内を確認してください。
※本記事の情報は2026年10月時点のものです。最新情報は各公式サイトでご確認ください。
最終更新: 2026年10月24日
参考サイト
- デジタルな形態を含む新たな教科書について:文部科学省
- デジタル教科書に関する各種調査研究:文部科学省
- 令和7年度 学習者用デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究事業:文部科学省
- デジタル教科書は「紙との併用が基本」 文科省指針案、紙の比重重く – 日本経済新聞
- デジタル教科書 “紙とデジタル”基本に 文科省指針案 | NHKニュース
- デジタル教科書 学校など8割が紙との併用を希望 文科省調査 | NHKニュース
- 学校教育法等の一部を改正する法律の公布について(通知)(令和8年6月17日):文部科学省
- ハイブリッド教科書の望ましい割合「紙」がデジタル上回る…文科省調査 – リシード
- デジタル教科書法が成立…紙・併用含めて選択 – 読売新聞
- デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等に関する指針の策定に向けて(素案)(検討会議 第6回 資料4):文部科学省
- 令和元年度 デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究:文部科学省
- Singer, L. M., & Alexander, P. A. (2017). Reading on Paper and Digitally: What the Past Decades of Empirical Research Reveal. Review of Educational Research
